Shin Yamagata

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構図




「構図とね、写ってるものが拮抗してるのがいいよねー。」
「わかります。でもね、構図は絶対に必要なんですよ。」
「いや、そうだよ。俺だって構図は必要なんだよ。でもね、構図がバーンてくるのと写ってるものがバーンてくるのは違うんだよ。」
「わかるんです。一時期、歩いてると構図がバンバン目に飛び込んでくるような時期があったんです。そのときはもうそういうのしか撮れないんですよ。それしか見えてこないときがあったんです。撮るときのきっかけはあるものだったりするんですけど、そのときはもうすでに構図が含まれてるんです。」
「でも、あの構図を撮れるってのはすごいことだと思うんですよ。あの一点に立ち止まってカメラを構えるってことだけで、すごいなーって思うんですけど。」
「それはそうなんだけどね。」
「俺ね、この場所は俺にしか撮れねーって思うんです。他の奴がここに来たって絶対にこれは撮れないだろっていう気持ちがあるんです。」
「それはわかります。僕も現場でここに立ち止まるのは僕だけだって思ったりすることはあるし、ここは誰も撮らないから僕が撮らなくちゃいけないって思ったりします。」
「それはそうなんだよ。でもね、絵を描いてる奴らがこの写真を見たときに、構図だね、ってそれをまず見るんだよね。画家は自分でそういうのつくっちゃうからすぐにわかっちゃうんだよ。写真と絵は全然違うんだよ。写真はいってみれば具象。もうそれしかないんだよ。」
「いや、わかるんですよ。」
「だから構図はなんで必要なわけ?」
「構図によって見え方が変わってくるからですよ。それは僕にとっては重要なんですよ。だってね、写るのはそこにあるものでしょ。それしか写らないですから。ま、単純な話で光しか写らないんですよ。そうでしょ?」
「そういうことばっかり言うから、非人間的だとか感情がないとか思われるんだよ。」
「いや、感情はだからありますよ。感情があるから写真を撮るわけじゃないですか。ただね、写真で感情を出したいとかそういうのはどうでもいいんです。もう、そんなのはうんざりなわけですよ。撮ってる人の感情なんて知りたくもないんです。そんなのはどうでもいいんです。お前のことなんてどうでもいいって言いたくなるんです。そんなことにこれっぽっちも興味がないから写真撮ってる人がそういう自分の感情とかそういうの話はじめると、黙れっ喋るなって思うんです。」
「そういう言い方がある種の人をイラつかせるんだろうね。」
「いいんです、そんなのは、仕方ないんです。」
「ま、君は写真を見るときもここにこんなのが写ってるとかそういうことばっかり言ってるね。ここのこの隙間が、みたいなこと言ってたよね。撮ってる俺は気付いてないんだけど、言われてみるとここに隙間があるからここらも見えてくるとかそういうのはわかるんだけどね。それはそうなんだけどね、自分の気持ちと写真ってのには断絶があるっていうか。構図ってのはもうわかってるんだよ。それに君は構図をきちんととれる。それも並大抵の構図じゃないのはわかる。それをどう使うかだよ。あるいはどう使わないかだよ。」
「わかるんですよ。僕もね、ずっとやってきて、その辺のことに対しては色々思うことがあるんですよ。」
「わかってるならそれをやればいいんだよ。」
「そんなこと言われて、はいやりますって言えればもうやってるんですよ。簡単にはできないんですよ。」
「簡単だよ。捨てちゃえばいいんだよ。今までやってきたことを全部捨てちゃえばいいんだよ。」
「いやいや、僕だってもう自分のやってることが確定してるとは思ってないし、日々疑ってやってるし、そのなかで何か掴めそうな気もしてるんですけど、でも‥そんなに簡単にいかないんです。」
「ちゃんと撮ればいいんだよ。ちゃんと撮ったのを見せてくれればいいんだよ。」
「ちゃんと撮りますよ。やりますよ。わかってますよ。」