Shin Yamagata

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3月25日
撮影を終えて、三脚を担いで原付まで戻ろうと車道を歩いていると、前からねずみ色の乗用車がのろのろと近づいてきた。ずいぶんゆっくり走っているなと思ったら真横でとまった。なんだろう、道でも聞きたいのだろうか、この辺りの道ならわからなくもないけど、行くか戻るかの一本道で聞くほどの道でもない。ウイーンと窓が開いて知らないおじいさんが窓からぬっと顔を突き出した。よぼよぼのおじいさんだ。「こないだは、おおきに」そう言ったおじいさんに前歯はなかった。一瞬、間があいたものの「いえいえ、どもども」と返事をして頭を下げた。おじいさんもぺこっと頭を下げて、車はまたのろのろと走り出した。去っていく車を見ながら、おじいさんの目がただ悪いだけなのか、それともおじいさんの頭の中が少しぼやけているのか、あるいはわたしに似ている誰かがこのあたりの集落に住んでいてその人と勘違いしたのか、もしわたしに似ている誰かがこのあたりに住んでいるのであれば、その人はどんな生活をしているのか、役場で働いているのか、山の仕事をしているのか、都市部ではただの中年であってもこのあたりでは若手の部類に入る年齢なのだろうから、村の中のあれやこれやを